今回の実験室
今回は前回、前々回に引き続き、CMOSイメージセンサ実験の第3回です。
前回は原理モデルを用いた実験を行い、被写体画像を想定できる程度の画像は得られましたが、十分に鮮明な画像とは言えない結果でした。
そこで今回は、画像品質の改善を目的とした実験を行いました。
改善実験
1.要因の考察
十分な画像を得られない原因として、いくつかの要因が考えられます。 大きく分けると、電気的要因と光学的要因です。
まず電気的要因について検討してみます。
今回使用したフォトICダイオードの特性は、「E-StationでCMOSイメージセンサの原理を学ぶ①」の図5に示しています。 
図5よると、飽和領域より低い光電流の領域(活性領域)では入射光の明るさに応じた光電流が得られることが分かります。 今回の測定結果では、光電流は0.1mA以下であり負荷線から見ても飽和領域ではないことが確認できました。
そのため、電気的な問題よりも光学的に明るさを改善することで画質の向上が期待できると考えました。
まず、光学レンズの明るさについて考えます。
レンズの明るさは一般に、焦点距離と有効口径の比であるF値で表され、F値が小さいほど明るいレンズとなります。今回実験に使用したレンズのF値は約2.3であり、特別に暗いレンズではないと判断しました。
一方、レンズ性能にはF値のほかに、光の透過性を示すT値があります。 今回は数百円で入手可能な実験用のプラスチックレンズを使用しており、T値が公開されておりません。 ガラスレンズと比較すると透過率は高くない可能性があります。
今回はレンズの性能の影響も想定しつつ、別の要素による改善を試みることにしました。
想定した要因は以下の通りです。
・光源の問題(全体を均一に照射できていないことと、光量不足)
・センサボックスへ不要光の侵入により、全体の明るさは増すもののコントラストが低下している
(1面はオープンにしていた)
・センサボックス内部での光の反射によるコントラスト低下
2.光源の改善
「E-StationでCMOSイメージセンサを学ぶ②」の図8(グレースケール表示)を見ると、上下で明るさに差があることが分かります。 
前回は光源を暗箱の下側だけに設置していました。 そこで暗箱の天面にLED照明を追加し、上下に照射する構成としました。
その結果を図1に示します。
上下のバランスは少し改善しているように思われますが、まだ十分な画質とは言えない結果でした。
特にコントラストの改善は見られませんでした。
3.センサボックスの遮光
次に、レンズ以外から不要な光が侵入することで、画像のコントラストが悪化している可能性を想定しました。 そこでレンズ以外から光が侵入しないよう、センサボックスの遮光を行います。
「2.光源の改善」に加え、センサボックスに蓋を取り付け、ボックス全体をクローズすることで不要光を遮断しました。
その結果を図2に示します。
コントラストは改善したようですが、さらに改善を試みます。
4.センサボックス内部の反射対策
今回のセンサボックスは紙製であり、レンズを通過した光がセンサボックス内部で反射している可能性があります。
内部反射が大きいと、白黒のコントラストが低下する要因となります。
そのため図3のように「3.センサボックスへの遮光」に加え、センサボックス内部の壁に黒色の不織布を貼り付け、内部反射を抑制しました。
その結果、図4に示す画像が得られました。
さらに画像が改善し、「イ」と判読できるレベルの画像を確認できました。
<補足>
今回の改善実験以外にも、以下のような改善案も考えられそうです。
・各フォトICダイオードへの光の入射角度と距離を揃える(もしくは補正する)
今回は像距離120mmに対してセンサは約60mm角の範囲に設置されています。
本来は垂直かつ同距離で入光するのが理想ですが、上記では角度で最大約20°程度、
距離で3%程度の差が考えられますので、その差を考慮する案です。
・フォトICダイオードの実装密度を高める
ユニバーサル基板では限界があり、プリント基板を作成することでさらに高密度に
実装し、分解能を高める案です。
5.実験のまとめ
今回は市販されている材料のみを使用して、CMOSイメージセンサの原理を実験的に確認することができました。
この実験をさらに高密度に実装し、カラー化(RGBなどへの分離)および動的な電気信号の読み出しを行うことで、CMOSイメージセンサの基本的な動作が実現できると考えられます。
実際の製品では、これらの基本原理に加え、さまざまなノウハウや高度な技術が組み合わさることで実現されていると思われます。
また、スマートフォン向けの小型イメージセンサや、自動車用途など過酷な環境下での使用など、CMOSイメージセンサは幅広い用途で活用されています。本実験を通じて、原理だけでは語りつくせない技術の蓄積があることを改めて感じる結果となりました。

今回の実験室
今回は前回に続き、CMOSイメージセンサ実験の第2回です。前回は実験の設計を行いましたので、今回は実際に製作し動作させてみます。
実験の方法
1.センサ基板の製作
はじめに各素子をはんだ付けする前にセンサボックスに収まるサイズにユニバーサル基板をカットします。
次に、ユニバーサル基板上に図1の回路図に従い、8行x8列になるようにフォトICダイオードと抵抗のはんだ付けを行いました。

センサ基板はセンサボックス内に配置されるため基板上で電圧を測定することが困難です。そこで各測定端をリード線で引き出し、サブ基板に測定端子をA1~H8のように格子状の順番で並べた測定端子としてはんだ付けを行いました。
測定線は64本となるため、今回は複数の線を束ねたフラットケーブルを使用しています。
このようにして図2のようなセンサ基板が完成しました。

2.センサボックスの製作
センサボックスには加工が容易な15cm角の紙製箱を使用しました。 箱の1面の中央に穴を開けて光学レンズを取り付け、さらにレンズと並行になるよう、かつ光学レンズとセンサとの距離が像距離(今回は120mm)となる位置にセンサ基板を固定しました。
この結果、図3のようなセンサボックスが完成しました。

3.評価環境の製作
不要な外光をなるべく避けるため、図4のように大型の段ボール箱の内側に黒シートを貼り付けた簡易的な暗箱を準備しました。

図5のように暗箱の中にセンサボックス、被写体画像、光源を設置します。
被写体画像は、上下左右が対象でない方が実験には適していると考え、今回は「イ」の文字を使用しました。
(1926年に高柳健次郎氏が世界で初めて映像の電子表示に成功した際の文字も「イ」であったことから、そのリスペクトも込めています)

4.測定
いよいよ評価開始です!
まず、光学レンズから被写体までの距離を被写体距離u(今回は600mm)になるように設置します。
フォトICダイオード面には画像が映りませんので結像しているかが分かりません、そこで図6のようにまずはフォトICダイオード面に白い紙を貼り結像するように位置を微調整します。結像したら、白い紙を取り除きます。

次に、E-Stationの5V電源およびGND端子とセンサ基板に接続し、電源供給を行います。その後、E-Stationの電圧計端子でそれぞれの素子端の電圧を計測します。
本実験では、8×8=64個すべてのデータの取得が必要となるため、測定端子に付与したA1~H8までの番号に従い、順番に電圧を測定しています。
その結果、表1の結果が得られました。

5.画像の表示
測定した電圧データをMicrosoft Excelに入力し、以下の式に従って電流値に変換します。
電流値=(電源電圧Vcc―測定電圧)/抵抗値
Excelでは256階調のカラースケール設定が可能なため、今回は電流値の最小値を黒、最大値を白に割り当てたグレースケール表示を行いました。 その結果、図7のような画像を作成することができました。

一見すると「反転したイ」に見えますね。 反転していると視覚的に評価しにくいので、Excel上でさらに反転処理を行います。
※補足
凸レンズ1枚で像を結像させているため、光学的には像は反転するのが正しい挙動です。 今回は電気信号として画像情報を取得しているため、このような反転処理も容易に行えます。

それでも、まだ「なんとなく“イ”に見える」レベルです。
次回はさらに画像品質の改善にチャレンジしていきたいと思います。
今回の実験室
スマートフォン、車載カメラなどいろいろな用途に使われているCMOSイメージセンサの原理を、実験を通じて学びたいと思います。 今回はその1回目です。
実験方法と実験サンプルの設計
1.CMOSイメージセンサの原理について
実験に入る前にCMOSイメージセンサの原理を学びたいと思います。
CMOSイメージセンサを拡大すると図1のように素子が格子状に並んだ構造をしています。
各素子の断面は図2のようになっており、センサに入った光はレンズとカラーフィルタを通過したあと、フォトダイオードで光の強弱に応じた電荷量に変換され、その変化を電気信号として取り出します。

2.今回の実験方法のコンセプト設計
CMOSイメージセンサは半導体チップ上に形成する素子ですので、そのままの構造を再現する実験は困難です。
今回は誰でも手に入るディスクリートのフォトダイオード部品を使って、実際に電気信号を取り出し、画像として表現することで原理を学ぶことをコンセプトに進めます。
そこで図3のような案を考えました。
・イメージセンサと同様の原理で働くフォトダイオードを格子状に並べ、そこから
電気信号を取り出します
・今回は簡単な白黒画像を対象とします
・E-Stationを使用し、それぞれのフォトダイオードに電源を供給し、それぞれの
フォトダイオード端の電圧を測定し光電流を求めます。
その光電流値をもとにMicrosoft Excelを活用し256階層の白黒画像としてプロット
してみます。
・実際に画像として認識できるか? 解像度を上げるにはどうしたらよいか?
などを、実験を通じて学びたいと思います。

3.実験ツールの詳細設計
センサ部分・電気部分・光学部分に分けて考えます。
●センサ設計
今回は補正フィルタなしで視感度に近い特性を持ち、入手が容易なフォトICダイオード(浜松 S13948-01SB)を採用しました。 次にこのフォトICダイオードを使った素子数の設計ですが、当然素子数を増やせば解像度が上がります。 今回は素子をユニバーサル基板上にはんだ付けすることを前提にするため、高密度化には一定の制約が生じます。 そのため、現実的な実装密度と後述の光学設計要件から図4のように8×8=64個に決めました。

●電気設計
フォトICダイオードの特性は図5のように適切な負荷抵抗を通じて電圧を印可しておくと、明るさに応じて光電流が流れることが分かります。
今回は一般的なオフィスの環境のもと、光源となるLEDライトを使って行います。 そのため、オフィスの明るさから精密作業台レベルの明るさ程度の光が入力される可能性があると考えました。
E-Stationは5V電源を内蔵していますので、図6のように1kΩの抵抗を通じてフォトICダイオードに供給するようにします。
その場合の負荷線が図5の紫線となります。この場合、精密作業台レベルの明るさ以下はほぼリニアな光電流変化を検出することが期待できます。


(E-Stationの電源供給についても検証しました。 精密作業台レベルの明るい環境でフォトICダイオードに流れる電流は3.3mA程度です。 64個すべてを明るい環境下に置かれた場合でも3.3mAx64=211mAです。 E-Stationの5V電源の供給能力は1Aですので十分ドライブできます。)
ユニバーサル基板上にフォトICダイオードを64個並べると図7のようにおおよそ□60mmになりました。

●光学設計
実験しやすい大きさとしてA4サイズ程度の画像を上記64個の格子状のフォトICダイオードに画像を映すことを考えます。
レンズの焦点距離fとそれぞれ像距離vと被写体距離uの関係は以下の式で表すことができます。
1/f=1/u+1/v
今回はケニス社のプラスチックレンズD-43 焦点距離100mmを選択しました。
この結果、上記の式により被写体距離は600mm程度必要となります。
像距離と被写体距離の比は5倍になりますので、250mmの画像は概ね1/5の50mm程度になることが予想されます。今回のセンサ面のサイズの□60mmに適度に収まるため、この設計内容で進めることにします。

4.予備実験
これまでの検討で実験に関わる設計ができましたが、数個の部品を使ってその実現性を予備実験で確かめたいと思います。
今回は2つの観点で予備実験を行いました。
・レンズを通した白黒の光の差をフォトICダイオードが必要な精度で検出できることの確認
図9のようにレンズを通した白黒画像の白(明るい)と黒(暗い)が映るように準備します。
その後、ひとつのフォトICダイオードを白と黒それぞれの位置になるように動かしながら
光電流を測定し、以下の結果を得ました。
白位置のとき 光電流Id=0.18mA
黒位置のとき 光電流Id=0.12mA
これにより約33%の電流変化が得られることが確認できましたので、今回の実験方法で
明暗を判別できると判断しました。
・フォトICダイオードの個体ばらつきが図形を描く目的に使えることの確認
今回の実験では64個のフォトICダイオードを使用します。 個々の素子のばらつきが大きい場合、正しい画像が得られないことが想定されます。 そこで素子の光電流のばらつきを確認します。
データシート上の光電流の特性は以下でした。
光電流:Min 0.18mA 、 Max 0.34mA
データシート上のMin値とMax値の差は、上記予備実験の白黒画像の電流差よりも大きく、これでは今回実験の画像用途では使用が難しいことになります。
しかし、データシートは一般的におおきなマージンを見ていますので、実際に5個を同じ条件で測定し、現実的なばらつきを基に判断したいと思います。
測定の結果、標準偏差σ=0.01mA程度で、99.7%区間である3σは0.03mA程度でした。
予備実験での白黒の電流差は0.06mAであることを考えると決して精度が高いとは言えません。
しかし、256階層グレースケール程度の画像を描くには、それほど高い精度は必要ありませんので、使用可能と判断して進めます。
次回はこれらの設計を実際に製作し動作させてみます。
今回の実験
今回は光を検出するCdSフォトセルを2個使用し、2か所の光の強度の差を検出します。
■実験方法
1.以下の回路図をつくります。
2.CdSフォトセルAとBにそれぞれの光の強さを変えたときに、LED1と2がどのように光るかを観察します。
■実験結果
1.以下のようにブレッドボード上に回路をつくりました。
2.それぞれのCdSフォトセルを指で光を遮るようにします。
まずはCdSフォトセルAの受光部に光があたらないように指で表面を覆いました。
LED1は消灯し、LED2が点灯しました。
次にCdSフォトセルBの受光部に光があたらないように指で表面を覆いました。
LED1が点灯し、LED2は消灯しました。
<考察>
LEDの点灯と消灯の観察とともにオペアンプの出力電圧の変化から回路動作を考察しました。
今回のオペアンプはフィードバック回路ではありませんので、コンパレータと同様の動作と考えられます。
つまり、オペアンプ入力端IN-とIN+の電圧の比較となり、IN-の電圧が大きければ出力はグランド、入力端IN+の電圧が大きければ出力は電源電位になります。
CdSフォトセルAの光を遮った場合、オペアンプの出力は0.04V(≒グランド電位)でした。
CdSフォトセルBの光を遮った場合、オペアンプの出力は5.06V(≒電源電位)でした。
それぞれのオペアンプ入力端の電圧は、抵抗33kΩとCdSフォトセルの分圧回路ですので、CdSフォトセルの光を遮った場合、素子の抵抗が大きくなっていると考えられます。
LEDの動作については、以前の実験で記述していますね。
オペアンプの出力電位が低いとトランジスタのベース電位は低くオンしないのでLED2側の電流のみが流れます。
反対に出力電位が高いとLED2側には電流が流れないが、トランジスタはオンするためLED1側のみに電流が流れます。
今回の部材
CdSフォトセル MI527
CdS(硫化カドミウム)フォトセルは、当たる光の強さに応じて抵抗値が変化するCdSの性質を利用しています。
今回使用したMI527のデータシートによると、受光部に光が当たった場合の抵抗値は10k~20kΩでした。(10ルクスの場合を明抵抗として記載されています)
受光部の光を遮った場合の抵抗値は1MΩでした。(10ルクスの光を消してから10秒後の値を暗抵抗として記載されています)
カドミウムを含むCdSフォトセルは欧州RoHS指令などの規制対象になります。
代替技術の進化にともない例外規定は縮小され、シリコンフォトダイオードやフォトICなどへの代替が進んでいます。
今回の実験室
マイクロホンは音を電気信号に変換するデバイスです。
今回は音の違いを電気信号の違いとしてオシロスコープで観測します。
■実験方法
1.回路図1のようにマイクロホンとオペアンプの増幅回路を接続した回路をつくります。
2.電源を入れ、マイクロホンに向かって声を出し、オシロスコープの波形を観察します。
「あ~」、「い~」、「う~」、「え~」、「お~」など異なる声を発音し、波形の違いを確認します。
■実験結果
1.回路図をブレッドボード上につくりました。
2.電源を入れ、マイクロホンに向かって「あ~」から「お~」まで発音したときの波形を観測しました。




それぞれの波形を比較してみます。
いずれの波形も形は異なりますが、それぞれが繰り返しの波形になっています。
その繰り返し時間(波長)はほぼ同じくらいでした。
(=基本周波数はほぼ同じと考えられます)
それぞれの繰り返し波形の形は異なっています。
(=高調波成分が異なっていると考えられます)
■考察
回路図2のように、実験回路のオペアンプ出力にエミッタフォロワ回路とスピーカを接続し、収音した音をスピーカから出力してみました。
収音した音が、オペアンプの電圧増幅とエミッタフォロワの電流増幅でスピーカを駆動し音が再生されていることが確認できました。
その後、マイクロホンにセンサーケーブルを接続し、スピーカに近づけてみました。
マイクロホンとスピーカが接近すると、「ピー」という音が出力されその音の波形が正弦波に近いことが分かり、ハウリング現象が発生することも確認できました。
※ハウリングについて
ハウリングは、スピーカから出た音をマイクロホンが拾い、アンプで増幅しスピーカから再度出力されることが繰り返されること(正帰還)で発生します。
ハウリングは不快な音が出力されるだけでなく、アンプにもスピーカにも負荷がかかりますので長時間続けることは避ける必要があります。
ハウリングの対策には、マイクとスピーカの位置や角度を変えるような音響的な対策と、イコライザやハウリングサプレッサのような電気的な処理での対策でハウリングを抑制する方法があります。
今回の部材
マイクロホン
マイクロホンは、音声などの音を電気信号に変換する装置または部品です。
マイクロホンはいくつかの観点で分類されます。
ここでは変換原理や構造での分類と特性での分類を紹介します。
変換原理や構造で分類した場合、
・ダイナミック型
・ECM(エレクトレットコンデンサーマイク)型
・MEMS(微小電気機械システム)型
が使われます。
電子機器に組み込む場合、電源は必要としますが小型化が可能なECM型やMEMS型が使用されることが一般的です。
特性面もいくつかの分類方法がありますが、ここでは指向性に着目した分類を紹介します。
・無指向性(どの方向も同じ感度)
・単一指向性(前面の感度は高く、後方と側面は低い)
・双指向性(前面と後方は感度が高く、側面の感度が低い)
・狭指向性(特定の方向のみ感度が高い)
このようにマイクロホンはいろんな種類がありますので、用途に応じて選ぶことが重要です。



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今回の実験
今回は前回のエミッタ接地増幅回路を使って、スピーカーから音を出力します。
またその際に考慮すべき点を考察します。
■実験方法
1.以下の回路図のように前回のエミッタ接地増幅回路を使い、トランジスタのコレクタに
100μFのコンデンサを介してスピーカーを接続します。
2.いったんスピーカーの片側をはずし(Vout端子オープン)、入力信号に正弦波1kHzを入力します。
その後、コレクタ電圧が2.5Vp-p程度になるように半固定抵抗器VRを調整します。
3.スピーカー端子を接続し、スピーカーからの発音状態とコレクタ電圧Vcの波形を観察します。
4.以下のように抵抗を変更し、同様にスピーカーからの発音状態とコレクタVcの波形を観察します。
Re:100Ω→10Ω 、 RL:1kΩ→100Ω
(実験回路の電圧増幅率はRL/Reです。同じ比率の抵抗値変更ですので電圧増幅率は
同じ結果が得られると想定できます。今回はその正しさを確認します。
厳密には抵抗値の変更で動作点も変化しますが、今回は考慮せずに進めます。)
■実験結果
1.以下のようにブレッドボード上に回路をつくりました。
2.実験方法2に従って、スピーカー端子の片側の接続を外し、1kHz信号を入力後に
半固定抵抗器を調整し約2.5Vp-pに合わせました。
3.実験方法3に従ってスピーカー端子を接続し、スピーカーの発音状態と波形を確認しました。
スピーカーからは、小さな音が鳴っていることが確認できました。
コレクタ電圧Vcの波形は、実験方法2と比べかなり正弦波が小さくなっていることが分かりました。
4.実験方法4に従って抵抗ReとRLを変更し、スピーカーの発音状態と波形を確認しました。
スピーカーの音が実験方法3と比べて少し大きくなることが分かりました。
また、コレクタ電圧Vcの正弦波も少し大きくなっていることが分かりました。
<考察>
今回の回路でスピーカーを駆動し発音できることが分かりました。
しかし、音は小さく、また同じ電圧増幅率であっても異なる結果になりました。
出力段の電流を考察してみます。
電源から供給される電流は図1のように抵抗RLを通ったあとに2つに分かれます。
前回実験から電流はバイアス電流(直流)と正弦波が増幅された電流(交流)が足し合わさったものになります。
コンデンサC2がありますので、直流成分はスピーカー側へは流れません。そのため、直流成分であるバイアス電流はすべてトランジスタ側に流れます。(動作点は変わらない)
一方で、交流成分を考えます。
コンデンサC2の1kHzのインピーダンスは約1.6Ω程度になります。そのため図2のように交流信号は抵抗RLを通じてスピーカーに供給されることになります。
抵抗RLは1kΩですので、抵抗分割の結果、スピーカー側の電圧は小さくなることが分かります。
つまり、回路にスピーカーを接続した場合、内部抵抗の大きな交流信号源に小さな負荷抵抗をつないだことと同じような状況になります。
実験方法4でRLとReをそれぞれ小さい値に変更すると、スピーカーの音が大きくなりました。これもこの関係から理解できますね。(交流信号源の内部抵抗を小さくしたことと同じ)
今回はエミッタ接地増幅回路で直接スピーカーを鳴らしました。
しかし、実験結果からわかるように、エミッタ接地増幅回路は電圧増幅に適していますが、低いインピーダンス(≒重たい負荷)の駆動には向いていません。
スピーカーのような低いインピーダンスのものを駆動する場合は、エミッタ増幅回路の後段にエミッタフォロワ回路を入れることでしっかり駆動できるようになります。
今回の実験部材
スピーカー
スピーカーは電気信号を振動に変換することで、耳や身体で感じる音をつくり出す装置です。
音楽信号などは複数の周波数の電気信号で表すことができ、それをアンプで増幅しスピーカーに送られ音を発します。
スピーカー内のコイル(銅線やアルミ線を巻いたもの)に電流が流れると、磁石の磁界によるフレミングの左手の法則で力が発生し、コイルに機械的に固定されている振動板(紙やプラスチックなどで円錐状のものが多い)を動かします。 振動板が前後に動くことで空気を圧縮し音が発生します。
スピーカーの振動板の前後は逆の位相の音が出ていることになりますので、そのままでは前後の音を打ち消してしまいます。そのため、スピーカーは木製やプラスチックの箱(エンクロージャー)に取り付けるのが一般的です。 エンクロージャーには密閉型やバスレフ型など目指す音に合わせていろんな方式があります。
今回の実験
前回の「BJT増幅回路の原理」では、シンプルなエミッタ接地増幅回路の直流動作を観測することで増幅原理を学びました。
増幅回路は交流信号を増幅することが主目的ですので、今回は標準的なエミッタ接地増幅回路で交流波形を観測し増幅動作の理解を深めます。
実験の前に、以下の図をもとに前回と今回の違いを整理してから始めたいと思います。
前回はベース電圧Vbとコレクタ電圧Vcの直流電位の変化をプロットしました。これによりVbの変化に対してVcが大きく変化(≒増幅)することが分かりました。
今回は前回の回路をもとに、より実用的な回路で実験します。
前回からの主な変更点は以下です。
①抵抗分割を使ってベース電圧に直流電位を与えます。
これは増幅回路の動作点を固定する目的です。バイアスを与えるとも言います。
(今回の電源電圧は+5Vですので0~5Vの範囲を超えての増幅はできません。
そのため交流を増幅する場合、交流的な基準(=動作点)をどこに設定するかを
決める必要があります。)
②コンデンサを通じて交流信号である正弦波をベース電圧に重畳します。
これによりコレクタ電圧から増幅された信号がでてくるか?を確認します。
※今回の実験回路では、上記の変更点に加えて
③エミッタとグランド間に抵抗(以降、エミッタ抵抗と呼ぶ)を入れています。
このエミッタ抵抗は負帰還の役割を果たし回路を安定化させる効果があるため、
実用的なエミッタ接地増幅回路では組み込むことが一般的です。
エミッタ抵抗の役割は考察の後半で深堀します。
■実験方法
1.以下の回路図をブレッドボード上につくります。 
2.半固定抵抗器を左いっぱいに回し正弦波信号を入力しない状態で、ベース電圧Vb、
エミッタ電圧Ve、コレクタ電圧Vcを測定します。
3.入力端子に正弦波信号1kHzを入力し、半固定抵抗器をゆっくり右に回し、
ベース電圧Vbとコレクタ電圧Vcの波形をオシロで観測します。
4.正弦波信号を100Hz、10kHzに変更し、それぞれの信号での波形の変化を観測します。
5.波形の観測や電圧の測定結果から考察します。
■実験結果
1.以下のようにブレッドボードに回路をつくりました。
2.実験方法2の各直流電圧は以下の測定結果となりました。
3.実験方法3でのオシロの観測波形は図1のようになりました。
ベース電圧Vbとコレクタ電圧Vcの波形が上下反転していることが分かりました。
これはVb-Vc特性が負の傾きであるためです。(詳細は前回実験参照)
半固定抵抗器を右に回していくと、図2から図3のようにベース電圧Vbが大きくなるとともにコレクタ電圧Vcが大きくなることが観測できました。
さらにベース電圧Vbを大きくしていくと、図4のようにコレクタ電圧の下側の波形がクリップする(つぶれる)ことが分かりました。
4.実験方法4に従って正弦波信号を100Hz、10kHzに変更し波形を観測しました。
図5~図7のように周波数を変更してもコレクタ電圧の振幅は変わらないことを
確認しました。(増幅率の周波数特性はほぼフラットであることが分かりました)
■考察
<コレクタ電圧Vcの波形クリップを考察>
実験方法3で入力電圧を大きくすると、図4のようにコレクタ電圧波形の下側がクリップしました。
クリップ波形を考察するために、前回実験と同様に今回の実験回路でのベース電圧Vbとコレクタ電圧Vcの直流特性を測定し、実験方法2で測定した動作点をプロットしました。(図8)
そのベース電圧の動作点に0.46Vp-pの信号を加えると、コレクタ電圧の下側は線形部分を超えてクリップすることが分かります。 上側波形がクリップしていないのはまだ線形の範囲のためであることも分かりました。
クリップしにくくするためには、Vbの動作点をVcの線形性が保てる中心に設計するのがよいですね。 今回の例では図9のようにVbの動作点をもう少し低い電圧に設定するとよいと思われます。

<エミッタ抵抗の考察>
冒頭でエミッタ抵抗が負帰還の役割を果たすと記しました。その負帰還動作のイメージを図10に記載しました。
以下、エミッタ抵抗の負帰還がどのように特性に影響するかを増幅率で検証しました。
図13と図14のように、エミッタ抵抗を入れることで増幅率は低下しますが、横軸の入力電圧に対しての増幅率の変化は小さくなっており、入力信号に対する出力の線形性(直線性)が高まっていることが読み取れます。(理想は増幅率一定)
この線形性が高いということは、入力波形に対して出力波形が変化しにくい(歪が小さい)ということになります。
エミッタ抵抗による負帰還の効果は、上記のような線形性の改善による歪の低減以外にも以下のようなメリットがあります。
・熱安定性の向上(トランジスタ自体の電流増幅率の熱変化を吸収)
・増幅率のばらつき低減(エミッタ抵抗がない場合はトランジスタ自体の増幅率が支配的で、そのトランジスタの増幅率はばらつきが大きい。 エミッタ抵抗を入れた場合の増幅率≒RL/Reとなり、抵抗値で決定できる。 ※今回の回路では、増幅率RL/Re = 1kΩ/100Ω = 10倍 ≒ 20dB)
以上のような効果から、エミッタ接地増幅回路ではエミッタ抵抗を入れることが一般的です
今回の実験
BJT(バイポーラトランジスタ)を使った増幅回路の原理を実際に測定して勉強します。
BJTの増幅原理はベース電流Ibに対して電流増幅率βに比例したコレクタ電流Icが流れることでした。
今回は原理の確認のためエミッタ接地回路を直流で動作させ、ベース電流に対してコレクタ電流の変化(電流増幅に相当)、ベース電圧に対してのコレクタ電圧の変化(電圧増幅に相当)を測定し動作を検証します。
※交流動作については次回確認します
■実験方法
1.以下の回路図をブレッドボード上につくります。
※エミッタをグランド側に接続するためエミッタ接地回路と呼びます
2.半固定抵抗器VRを調整し、ベース電圧Vbを0.58V~0.8Vまで0.01Vステップ程度で変化させます。
その際にベース電圧Vbの変化とともに、半固定抵抗端電圧Viとコレクタ電圧Vcを記録します。
抵抗Rbを流れるベース電流Ibと抵抗RLを流れるコレクタ電流Icを以下の式から求めます。
また、求めた各電流値から電流増幅率βを求めます。
(参考:電流増幅率はトランジスタ仕様書ではhFEと記載されています)
3.抵抗RLを100Ωから1kΩに変更し、実験方法2と同様に測定および計算を行います。
4.測定結果をグラフにまとめて考察します。
■実験結果
1.実験回路を以下のように準備しました。
2.実験方法2および3の手順で抵抗RL=100Ωと1kΩのときの各電圧の測定と電流を計算しました。
3.実験方法4にしたがって上記の測定結果を以下のグラフにまとめてみました。
上のグラフ:ベース電圧対コレクタ電圧、 下のグラフ:コレクタ電流に対する電流増幅率
左のグラフ:RL=100Ω、 右のグラフ:RL=1kΩ
上のグラフはベース電圧に対してのコレクタ電圧の変化を表しています。
したがって傾きの大きさが電圧増幅率を意味しています。
(例えば左のRL=100Ωの図の場合、Vb=0.7Vを中心に0.02V変化させたとすると、Vcは3Vを中心に1Vくらい変化することになります。 つまりVbに対してVcは50倍変化していることになりますね。 参考ですが、この説明のような動作させる中心を動作点と呼びます。)
この図は負の傾きなのでイメージしにくいですが、傾きが負ということはベース電圧が大きくなるとコレクタ電圧は小さくなるということなので、交流で考えると位相が反転していることになりますね。
※位相が反転するのは回路図から予想できます。コレクタ電圧Vcは以下の式となります。
これはコレクタ電流が大きくなると、抵抗RLでの電圧降下が大きくなりVcが低下することを意味します。 つまりIbやIcが増加するとVcは低下するという逆の動きなので位相が反転しているということですね。
一方で、下のグラフはベース電流とコレクタ電流の比である電流増幅率βです。
ベース電流は非常に小さいので、測定誤差の影響を受けていますが、概ねコレクタ電流が変化しても一定(グラフでは水平)、かつ抵抗RLを変えても概ね同じ値であることが分かります。
※今回のトランジスタではβは310程度でした。 電流増幅率が一定ということでトランジスタが電流増幅の機能を果たしていることが確認できました。 ただ、コレクタ電流を大きくするとβが低下するため、電流増幅には限界があることも分かりました。
もう少し上側のベース電圧対コレクタ電圧のグラフの深堀りをしました。
傾きが電圧増幅率になりますので、上記のグラフを微分すれば電圧増幅率のグラフを描くことができます。 今回は多項式近似で関係式をもとめ微分計算しその結果をプロットしてみました。
動作点(ベース電圧Vbやベース電流Ibをどこに設定するか)により電圧増幅率が変化しています。また抵抗RLが大きい方が電圧増幅率が高いことも分かりました。
今回の測定では最大増幅率は6dB程度の差なので、RL=1kΩ時とRL=100Ω時のそれぞれの回路に同じ入力電圧を加えた場合のコレクタ電圧は、RL=1kΩ時が2倍くらい大きくなります。
※電圧の2倍をdB表示にすると、20xLog(2倍)≒6dBになります
今回の実験部材
バイポーラトランジスタ
バイポーラトランジスタとは、トランジスタの一種で、半導体のpn接合によって構成されたトランジスタのことです。
一般的に「トランジスタ」といえばバイポーラトランジスタを指していることも多いです。
バイポーラトランジスタには、ベース、エミッタ、コレクタの3つの端子がついています。ベースに流れる電流に応じてコレクタに電流が流れることを利用して回路を構成します。
(ベースに電流が流れると、コレクタはそれに応じて電源から電流を持ってくるイメージ)
バイポーラトランジスタにはpn接合の構造によってnpn型とpnp型に分けられます。npn型とpnp型は電流の流れる方向が逆になります。
バイポーラトランジスタは回路構成で電圧増幅にも電流増幅にも活用でき、また生産コストも安価であることから、多くの電子回路に利用されています。
なお、バイポーラトランジスタは電子と正孔の2種類のキャリアを持つため、2つを意味するバイの名がついています。 これに対して電界効果トランジスタ(FET)は電子か正孔のいずれか1種類を扱うので、ひとつを意味するユニを使いユニポーラトランジスタとも呼ばれます。